家族を愛するサラリーマン 兼 社会保険労務士の手帖

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臓器移植...答えのない、とても難しい問題

僕は日経新聞の電子版をiPadで読んでいるのですが、今日の日経新聞に臓器移植に関する記事がありました。
1カ月前に臓器移植を受けたばかりの僕にとっては、とても興味深く、記事を読みました。

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【科学技術 ニッポンの歩み】 (7)先端医療 重い教訓
国内初の心臓移植 閉鎖性に批判、足踏み
日本経済新聞 2015/11/29 3:30 朝刊)
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まだ世界的にも臓器移植が未知の医療だった時代、1968年に札幌医科大学和田寿郎教授のグループによって実施された日本初の移植手術(心臓移植)、そして脳死ドナーによる移植医療に関する記事です。

この和田教授による日本初の移植手術は、ドナー(臓器の提供者)は海岸で水泳中に溺れた青年、レシピエント(移植を受ける人)は心臓の病気を持つ少年で、移植手術後当初はレシピエントの少年の経過は順調だったものの数ヶ月後に亡くなってしまいました。("和田心臓移植事件")

日経新聞の記事では、和田教授が移植から1カ月後に、「拒絶反応は(医師の)腕が立たないから起きる。私なら起きないんだ。」と会食の席で語っていたこと、その後時代が進み、80年代に入ってから免疫抑制剤が登場して、世界的に移植件数が増加したことなどが紹介されています。

この和田教授の移植事例は、「ドナーの脳死判定」、「レシピエントが移植適応であったか」等々の非常に重要な点に透明性が欠けていて、レシピエントが亡くなった後、世間から多くの批判と疑問の声が起こり、移植医療に批判的な意見が多くなった結果、その後30年以上にわたって日本の移植医療が停滞した契機となった事例、ということです。

まだまだ移植医療が未知の医療の時代だったとは言え、当時の和田教授のコメントから分かる認識や、免疫抑制剤での拒絶反応のコントロールなしで移植を行うという今では考えられないような時代だったことが分かります。

改めて、現在の移植医療の発展とそれに尽力してきた医師や研究者の方々の努力、そして何より、命を落としていった数多くの患者さんたちがいたことを思い知りました。

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時代が進み、法改正も行われ、今現在の日本では年間数十例の脳死ドナーからの移植手術が行われています。
それでも欧米に比べると脳死ドナーからの移植件数は非常に少ないと言われています。

インターネットで調べれば簡単に分かることですが、日本の臓器移植には様々な課題があることが分かります。


脳死ドナーに関してよく議論される、「脳死や心停止を"死亡"とみなすか」、「脳死判定された人から臓器をもらうことは、倫理的に許されるか」という日本人に多いとされる考え方が根底にある問題が根強くあることも、脳死ドナーからの移植が進まない理由の一つのようです。

僕は脳死肝移植ではなく生体肝移植を受けましたが、生体ドナーからの移植でも、「健康な人の体にメスを入れて臓器をもらい、延命するなんてあってはならない」、という考え方の人が数多くいることも確かです。

倫理観や死生観は人それぞれですから、それぞれに独自の考えがあって、そのどれもが各人にとって正しい考えだと思います。
ただし、特定の考え方が、先端医療を停滞させたり、救える命に影響を与えてはいけないと思います。

もし移植医療を否定的に考えるのであれば、自分自身、そして家族が臓器移植の適用になった時に移植を拒否すればよく、移植に生きる望みをかける人たちを否定することは決してできないと僕は思います。

妻は、移植手術後同室になった患者さんから、「一生障害が残る」と言われたそうです。
その方がどのような意図でそう言ったのかは分かりませんが、ドナーになって自分の臓器を提供する決断をしたことを尊重する人であれば、そのような発言はしないのではないでしょうか。

僕や妻、僕と妻の家族がどんな気持ちで移植手術を受けること決めて、どんな気持ちで日々過ごしているかは、実際に移植手術を体験した人でなければ分からないのだろうと思います。
誰かの痛みの犠牲の上に延命をするという選択は、命を受ける側も、与える側も、周囲の人にとっても、本当に究極の選択です。

ドナーになった妻には、何度も病院に通い、いろいろな検査を受けてもらいました。
検査には自己血貯血など、健康な妻にとってとてもつらい検査や手術準備もありました。
手術後に重大な合併症が起こる可能性があり、また、肝臓を提供したことで命を落とす可能性さえあったのに、妻は僕に肝臓を提供することを選択してくれました。

生体ドナーからの移植は、移植前も移植後もドナーの心身のケアが何より重要なのは明らかです。

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医療の技術が発展するのと同時に、ドナーをどうケアするかや、日本人の考え方に合った移植医療の進め方も発展していかなければならないと思います。

臓器移植を受けたひとりとして、僕に何ができるか、一生考え続け、行動していきたいです。